パソコンのエラーは、本質的に難しい
PC初心者の人からよく聞かれる質問に「パソコンの出すエラーメッセージはなんであんなに理解不能なの?」というものがあります。
そういう質問に僕はこう答えることにしています。「それは、エラーメッセージを出しているソフト自身だって、うまくいかなかった原因がよくわからないからだよ」。
実はこの質問は、質問した本人は気付いていないかもしれませんが、PCがPCである――家電や携帯やワープロ専用機とは違う――ことの本質を突いている質問です。そのことについての説明を一切省いて結論だけ言うと、冒頭の回答になります。
その本質というのが何なのかを述べましょう。まず、PCが家電と違うところ、それは使用者がプログラムを自由にインストールできることです。家電も携帯も、使用者が機械に入れられるのはデータだけ。プログラムを入れられるかどうかが違いなのです。
どんなプログラムが入っているかが決まっていないということは、機械の動作をあらかじめ予測できないことを意味します。ソフトを作るとき、他にどんなソフトが入っているかによって機械の仕様が違うのに、それは未定のままプログラムを作らないといけないのです。
他にどんなソフトがどのように入っていてPCがどのように振る舞うか、そのことをソフトは「環境」と呼びます。一部のソフトは、環境がどうであるかに応じて自分の動作を変更するため、ユーザに「環境設定」をさせます。これはもちろん、ユーザがPCのソフト状況を把握していることを前提にした要求ですね。
ソフト自身が自力で環境を解析して、それにあわせた動作をするというのは、原理的に困難です。PC内のソフトインストール状態には事実上無限通りの場合の数があるからです。*1そもそも、環境設定メニューで選択肢を提示して動作を変更すること自体も、何通りかの状態のPCに対して正しく動作するようにするだけです。ほぼ無限通りあるPCの状態すべてに対応できることは期待できません。
振る舞いの場合の数が無限通りあるPCに対して、有限通りの状態しか考慮せずに(できずに)設計したプログラムを動かした場合、期待と異なる結果が出る場合が当然あります。このようなとき、プログラムにわかるのは「想定した以外の振る舞いをPCがした」ことだけです。
このときプログラムにできること、それは「PCが、想定と違うこんな反応をした」とエラーメッセージを出すことだけです。何が原因なのか、どうすればいいのかなど表示できるわけがありません。なにしろ、想定した有限通りの状態以外だったわけですから(想定内の振る舞いだったのなら、最初からエラーメッセージなど出さず、振る舞いにあわせた動作をすればいいだけのことです)。
プログラムをインストールすることができるおかげで、PCは使用者の望む機能を持つことができ、アップデートすることができ、複数のベンダのソフトを利用することができるという便利さを持っています。それと同時にこの特徴は、状態が(ほぼ)無限通りになることで振る舞いが予測できなくなるという最大の欠点の本質でもあるのです。
このことを一言でまとめると、まさに「ソフト自身だって、わかっていない」ですね。
*1:ある程度環境設定を自動化したソフトというのもありますが、それは選択肢を非常に限定することで実現しているに過ぎません。設計時に想定しなかった状態になっていれば、環境を正しくは判定できません。