2023年こんな本がおもしろかった

やまかわアドベントカレンダー Advent Calendar 2023 - Adventar 1日目の記事だよ!
このアドベントカレンダーはノンジャンルだけど、買ってよかったものみたいなお題があるんで、じゃあ今年読んでおもしろかった本とか紹介してみようと思いました。
技術書も実用書もお話も漫画もとりまぜていってみましょう。

六人の嘘つきな大学生

www.kadokawa.co.jp
殺人事件じゃないミステリー。
1ページごとにどんでん返しがあるみたいなジェットコースター展開なので飽きることなく一気に読めちゃいます。楽しいよ。
読者への解けるかなという挑戦という正統派ミステリーとしてよくできているかっていうと、目指しているのはそっちではないかもしれない。
でもページめくるごとに急展開でもってかれるのは気持ちいいし、あと何より大事なこととして読後感とても良いです。だからおすすめ。

話題のミステリーでも、方舟は出来が最高に良いものの読後感がちょっとあれ(オブラート)、爆弾も同じくだったので、おすすめするときには読後感アラートも付けてくださいお願いします。あとは子供が死んだりひどい目にあいますアラートもよろしく。
その点、世界でいちばん透きとおった物語は驚きと読後感の良さを両立してましたね。あー、殺人事件じゃないミステリーだと読後感よくなりがち?

プロジェクト・ヘイル・メアリー

www.hayakawa-online.co.jp
ミステリーと並んでSFも、どう紹介してもネタバレになるんで紹介しづらいし感想書きづらいですよね。でもがんばるます。
SF読む人って、私だけじゃないと思うんですけど「星を継ぐものがおもしろかったのでSFに入って、星を継ぐものみたいな本にまた出会いたくてSF本を手に取り続けてしまう」という、
ある意味「ラピュタナウシカがおもしろかったので宮崎駿に入って、ラピュタナウシカみたいな映画がまた見たくてジブリの新作に足を運び続けてしまう」みたいな永遠のループに閉じ込められている人、いるんじゃないでしょうか。まあ私がそうだってことですが。君たちはどう生きるかも、ラピュタナウシカではなかったなあ⋯ 次作に期待。

そんなSF読みを救済してくれた感じです。そう、これが読みたかったの、いやそれどころか星を継ぐもの以上では!? って。
どの辺で星を継ぐものを越えたかというと、ラストのエモさですね。星を継ぐもののラストもエモかったけど私はこっちのがより刺さりました。

銃・病原菌・鉄

www.soshisha.com
はてな論壇でこれ流行ったの10年前ですよねえ、今さら読んだのかよ、はい今さらですが読みました。
そしたら、とても良かった。私の好きな考え方にぴったりヒットしている本でした。
すごく一言で言うと、大陸ごとの文明の進み方が全然違うのを、白人が優秀だったからでもなく、単なる偶然でもなく、地形と植生と動物学、それに発掘された事実から全部「必然」で説明してやろうという意欲的な本。
理系にとって、単なる暗記教科だったはずの歴史地理が必然で説明されていくのはすごい快感です。

これははてブコメントで昔教えてもらったことなんですけど、日本人の気質ってわりと地形と植生で説明付いちゃうんですよね。
大陸東岸にあってモンスーン気候下にあるから夏の降雨量が多く稲作に向いている、それで労働集約的な稲作が最も効率的になるから、マンパワーがとにかく必要なため集団に従順な働き者が生きるのに有利な環境だったと。
大陸東岸にあるとモンスーン気候になるのは地球が東向きに自転していることでのコリオリの力によってで、つまり日本人の気質は地球の自転方向に由来している、そういう話。

こういう話が刺さる人むけの本。

仮説思考

str.toyokeizai.net
コンサル本ですねー。でもコンサルなりたい人に限らず、お仕事するすべての人に読んでもらいたい本です。
お医者さんにもですよ。実際、自分が研修医の頃にこれ読んでたら相当助かっていたはずと思いますね。いずれ辞めるのは変わらないかもにしろもう何年か長く続けられてたかも。

すごく簡単に言うと、「情報収集とか材料集めしながら解決へ向かおうとするな、解決の最終像をさきに描いちゃってから足りないピースを集めに行け」というお話。
えっそれって結論ありきの思考をしろってこと? いや、そんなことはない、ピース集めて最終像に届かないようならそれは描いた最終像が間違っていたって知見になるでしょっていう。

将棋のプロ棋士も盤面を一目見てまず打つべき最善手はだいたい見えちゃうらしいですね。その上で、最善手だと思ったその先を読んで本当にこれで大丈夫なのか検証するのに時間を使うと。まあ、りゅうおうのおしごと!で読んだ話ですが。
可能性のあるすべての手を読んでたらそりゃ場合の数が爆発して何も読めませんもんね。そりゃそうだ。
プロ棋士でさえそうやって最終像を先に定めてから検討するのを当然に思うのに、われわれ凡俗がそうでなく全可能性を探っていこうとしたら何も進まないのはそりゃ当たり前。いいからこの仮説思考を読んでください。

メダリスト

afternoon.kodansha.co.jp
先にお断りしておくと私はスポ根ものが大好きです。体育会系とか正反対の世界にいるのに、読むのなら大好き。野球とかルールさえ怪しいのにラストイニングは超おもしろかったし、小学生の頃習ってた剣道とかいやでいやでしかたなかったのにあさひなぐは最高でした。
それを差し引いてもメダリストは素晴らしいしおもしろいし熱い。スポ根好き以外にもすすめられます。

ダブルバインドってあるじゃないですか。子供に理解ある親であろうとする親がむしろやっちゃいがちなすごく悪い接し方。口では「思うとおりにやっていいよ」と言うんだけど子供が思うとおりにやってくれてないと態度でいらつきを見せてしまうっていう。
その点この話のコーチは違うんですよね。「君は選択しなくてはいけない」って選択肢とそのメリットデメリットを教えて、でも「どちらを選んでも必ず金メダルへ導くから」って責任だけ取るのね。これが令和最新版の子供に理解ある大人ですよ。

二月の勝者

bigcomicbros.net
はいまたスポ根です。受験は非電源eスポーツですから。
コーチ側の視点で、あの手この手で最善は尽くすものの最後は「信じて送り出す」ことしかできないって点でフィギュアスケートのメダリストと共通点ありますね。
実際、開成の入試に島津君を送り出すときのシーンは中部ブロック大会でいのりちゃんを送り出すシーンと重なって見えた。

いのりちゃんはとにかく根性も素質も最強だしご家族の協力も文句なしなわけだけど受験生達はそうじゃない、それぞれ違った困難がありそれらを同時進行でさばいていくスピード感はマンツーマンのフィギュアスケート指導にはなかったところですね。
「指導者スポ根」同士読み比べも楽しいし、あとお子様をお持ちの皆様にも、なぜ中学受験なんてものがあってそれに挑戦する意味があるのかわかる話でもあるので一読をおすすめする次第。

多様性の科学

d21.co.jp
多様性ってのは2020年代のキーワードってところあると思いますが、それがただの流行り言葉とかじゃなく本当に意味のあるものだってのを数字の根拠とエピソードでこれでもかってくらい理解らせてくれます。

最初の章がいきなり衝撃的だし、結局最初の章が一番大事。だから最初の章だけ読んで力尽きても十分もと取れているので安心して読んでください。
似たような属性の人々の集団は考え方も観点も似通っているので、議論するととても気持ちがいいし良い議論をして良い結論を出せた実感が持てる。ところがこういう集団の出した結論の方が実際には見落としが多いってんです。
バックグラウンドの異なる人々同士の集団だと議論は不愉快なものになりがちなんだけど、実際に出てくる結論は見落としが少ないと。
「良い議論ができているという実感」ってのが信用ならないどころか逆だぞってのが衝撃的かつ厳しいですよね。

あと、後ろの方の章にある「摂取した食品と血糖値の上昇幅は、個人ごとの差が想像以上に激しい」という話だけは眉につばを付けて読んでいます。
この章の情報ソースがどうも一社の言っていることだけ(しかもその一社というのが、オーダーメイド健康サービスを提供する会社)だからというのがその理由。

リボーンの棋士

shogakukan-comic.jp
プロ棋士界を題材にした漫画はどれも、奨励会の話と奨励会落ちの話は避けて通れないんですよね。
奨励会落ちしたあとからはじまる敗者復活への道という漫画。はい、つまりスポ根です。(非電源eスポーツ、はい)

文句なしにおもしろいのでこれといって特にどこがと紹介するポイントはないんですが、キャラ推しの話をしておきますか。
私はですねー、いや、人類の多くがそうだと思いますが、悩みが多くて迷いながら生きてる脇役に主人公以上に感情移入しちゃうところ、ありますよね。
ガンダムだったらもちろんカイ・シデン全力推しだし、あとなんだろ、最近のやつだとぐらんぶるの吉原愛菜ちゃんの迷走ぶりが最高だし、スキップとローファーだったらもちろんミカちゃんですね。
そういう感じ、迷いなく真っ直ぐな主人公の横で迷い続けている魅力的な脇役がいるんですよ、土屋くん。彼を応援し続けながら読んでいました。主人公、お前は大丈夫だ絶対なんとかなるからって主人公のことはまったく気にしてなかった。

外天楼

kc.kodansha.co.jp
石黒正数は神なので、神の著作はどれをおすすめとかでなく全作品あわせて聖書として精読すべきものなんですが、信心なきものに布教するとしたらまずこの本からですね。
ゆるいけど発想がおもしろい短編アンソロジーかと思いきや読み進むにつれてすべての話がつながっていきます。
同じ発想の伝説的な作品、こぐまレンサと読み比べるのも楽しいかも。

たった1巻で読み終わってしまうので、これでまだおかわりがほしいってなったらここでそれ町なり天国大魔境なりおすすめして沼に引きずり込んでいきたい所存ですね。それ町はマンガDXで、天国大魔境はマガポケかコミックDでだいたい読めます。外天楼は買うしかない。

Clean Architecture

https://www.tumblr.com/asciidwango/176293765750/clean-architecture
asciidwango.jp
これ読んだの今年だっけ⋯? まあいいか。ソフトウェア設計とアーキテクチャに関する素晴らしい書です。
ドッグイヤーなコンピューター技術の本でも、良いやつは50年くらい陳腐化しないものですが、この本は確実に100年後も読めますね。よい本。

「依存性の逆転」の概念を紹介したことで有名になった本です。依存性の逆転のことちょっとだけ説明しておくと、ほら、Webコントローラー層はアプリロジック層を呼び出して、アプリロジック層はDBアクセス層を呼び出すのが普通じゃない。
でもそれを普通に書くと、呼び出し元が呼び出し先に依存するものだから、アプリロジック層がDB層に依存してしまう。それって逆だよね、ってことでDB層がアプリロジック層に依存するように設計しようねという話。
(interfaceをアプリロジック層で用意してDB層はそれをimplementsするように書けってことなので別に難しいテクニックではない)

この本はやはり、システム開発の初心者が読むものではなくて、たくさん苦労してひどい目にあい続けてきたベテランが読むべきやつです。
あの苦労はこういうことだったのか、こういう形なら綺麗にスマートに切り抜けられたのかって目から鱗が落ちますから。初心者が読んでもこの感動は得られない。
そうかわかった、先月くらいtwitterで「リーダブルコードを読んでいないようならまともなプログラマじゃない」かどうかについて一騒ぎあったんですが、この本もリーダブルコードもこうだと言えばそんなに間違いじゃないのよ:「読んで感動できるようなら一通りの経験は積んだプログラマと言っていい」

あと、これだけ読んでソフトウェア設計とアーキテクチャをわかったつもりになってはいけないってのも注意点です。
ソフトウェアアーキテクチャの基礎を読んでもらえばわかるんですが(私が書いた紹介記事)、クリーンアーキテクチャアーキテクチャの数ある断面の中の一選択肢にすぎなくてメリデメはいろいろあるよってことはちゃんと認識した上で、こういう美観というものがあるとわかっておくことに価値があるってものです。銀の弾丸、ほしいですよね⋯。

2024年もよろしくお願いします

みなさま、私に楽しい本をたくさん紹介してください。
私は、本に限らずCDとか映画とかもなのですが、ジャケ買いが苦手です。タイトルと装丁だけ見てもどれも全然良さそうに思えない。
だから「これ良いよ!!!」とすすめてくれないとなんか何も読めないんですよね。
私にたくさん未読本詰ませてください。