首をひねるとき

健康食品だとか民間療法だとか新興宗教だとかの体験談によく出てくる文句で「医者も首をひねった」というのがあります。そこまで不思議な効果とか御利益があるのかと。
いやいや待て待て、首をひねるのがお医者さんの仕事ですから。教科書通りの患者さんなんか見たためしありませんから。どんな症例も大抵どこかヘンで、それでも首をひねりながら妥当と思える答えを出していくのがいつものこと。だから「誤診」って言う言葉は医療現場じゃほとんど使いません。正しい診断だったのかどうかあとから判断できることの方が少ないんだから。そのときの状況で妥当な判断だったかどうかしか言えないのです。
と言うわけで今日首をひねったのが丑三つ時頃に来た胸痛・呼吸困難のおっちゃん。ペースメーカー入って高血圧で糖尿病でと何が起こってもおかしくないんだけど、狭心症心不全も起こしてるわけじゃない。でもしっかり酸素飽和度は89%まで下がってる。じゃあ既往はないけど喘息? うーん。
その他にも夜中定期的に起こされるし、以前合わなかった抗生剤をうっかり使っちゃったりといいことなし。

上がったら下がるものなーんだ

今日は結構ヒマだったので、明日提出の情報社会論のレポートをやっていられるかなあと思いきや救急車。悪心・めまいがあって血圧を測ってみたら180あったというじっちゃん。これは高血圧緊急症です。やることは決まっていて、点滴ルートから降圧薬を使います。血圧が下がって症状も取れたなら確定診断。でも当然、これは付きっきりで血圧を測り続けないといけません。おお、レポートは無理か。
すがる思いで外来で何回か測りなおしてみたけど血圧が下がるわけもなく、入院して点滴か・・・と病棟にあがったら。血圧正常に戻ってるでやんの。早まったか!

拒む壁

偏頭痛でイミグランも効かない強い発作になり、以前効いたレペタンを注射して欲しいという看護婦の方が来院。レペタン中毒が頭をよぎったけど、患者さん自身がレペタン中毒になりはしないかと心配しているくらいだからそれはまあ大丈夫でしょう。そしてルートをとろうとしたら・・・手も足も、血管なんかどこにもない不毛の荒野。先週アスピリン喘息をおこしてT京大学病院へかかったら4人のドクターに代わる代わる点滴をチャレンジされたとのことで、確かにどこもかしこも穴だらけ。めぼしい血管というのがまずないし、血管かもしれないところはすべて刺されたあと。内服薬効かない・血管がない・血管が漏れるの三重苦で大奮闘して、はたして膝の裏という訳のわからないところにルートをとってなんとか点滴落としきったのでした。

にわかソーシャルワーク

主治医がお休みなので、不満スパイラルな患者さん夫妻の間に立たされました。慢性アル中でよわよわになって年末担ぎ込まれたじーちゃんと、それに帰ってきてもらいたくないばーちゃん。じーちゃんの方は年末年始入院してアルコール断って、なんか元気にぺたぺた歩き回ってて帰宅はできてしまう状態。早く帰してしまいたがっている看護婦さん達。3が日明け帰宅に落とすのに何時間かかったか・・・

にわか内科病棟

所沢の、できたばかりの内科&精神科病院の当直をいきなり頼まれる。まず絶対に呼び出しはかからないからと。ところが夜になって、精神科の病棟から意識障害でコール。やべえ舌根落ちてる。なんでこう当たるのかなおいらは? モニタとか救急カートとか他の病棟から持ち込んで、まるで内科病棟の患者さんみたいになっちゃいました。

衝撃の真実

これまで毎回、夜8時に病棟を「なんかお変わりないですか〜」と聞いて回ってたんだけど、今日初めて言われたこと。「他の人は誰も病棟なんか回ってくれませんよ」。なにー、義務だと思って回ってたのに。おいらだけだったの? しかしこれで「いいひと」のイメージができてしまうとやめるわけにも行きません。

それを言ってくれないと

救急隊のみなさんは、傷病者を受け入れてくれる病院を探すのに日々苦労しています。付近の病院に断られまくったのか、すごく遠くから搬送されてくることも。すると、病院側に病状を説明するとき、病院の嫌がりそうな情報を言わずにいたりすることがあります。近所の病院にはあまりそれやると信頼関係にヒビ入るので危険なわけですが。
今夜は夜半過ぎてから20代女性、過呼吸、ややアルコール入っているとの受け入れ要請。アルコール入っているってのは普通嫌がられる条件なので、正直に言ってくれたものだなあ・・・、と思いきや。大事な情報が隠されていました。実はその人、自殺未遂歴が数十回ある精神科通院中の方。何が困るかというと、一般病院では精神疾患の方を入院させることが設備上無理なのです。だから来院してから帰宅がとても無理となると、入院もさせられず困り果てることになるわけ。
今回は紙袋呼吸と気休めの点滴で軽快帰宅。よかったー。