レシートでゲーム理論

ディスカウントショップなんかでたまにやってる宣伝文句、「他店より1円でも高い商品があればレシートをお持ちください、値引きします」というの、あれは結構挑発的に見えるけど店にしてみれば実はそんなに負担のない商法なのだとか。
考えてみると、あの商法はゲーム理論で言うと「しっぺ返し戦略」というとても合理的なやり方の実践なんです。ちょっと説明しましょう。
この戦略は「繰り返し囚人のジレンマ」というゲームで使われる戦法です。囚人のジレンマというのは代表的なゲーム的状況のひとつで、二人のプレイヤーがいるとき

  1. 二人とも協調行動を選べば二人とも大きな利得が得られる
  2. 二人とも裏切り行動を選べば二人とも小さな利得しか得られない
  3. 片方だけ裏切り行動を選べば、裏切った方は大儲け、裏切られた方は大損

というルールの下、いかに大きな利得を得るかという課題です。そして、これが一回の対戦で終わらず無期限に繰り返されて、平均的に大きな利得を得ようという課題が「繰り返し囚人のジレンマ」。
店で言えば、競合店との間で値下げ競争に陥った状態が二人とも裏切り行動を選んだ状況に当たります。
で、しっぺ返しというのは経験的に知られている最強の戦略で、

  1. 最初は必ず協調を選ぶ
  2. 2回目以降は、前回の相手の選択を真似する

それだけ。つまり、裏切られたら一回だけ裏切り返す。それだけで、どんなに複雑なアルゴリズム相手にも大抵は最終的な利益で上回ってしまいます。短期的には負けても、しっぺ返しの絡む試合は双方が大きな利益を上げることが多いので、リーグ戦の結果では総得点が一番になるわけ。もちろん、しっぺ返し同士が対戦するカードなんかお互いに協調し続けるので双方とも好成績。
さて、ディスカウントショップにとっては、競合店がある状況でうまく稼ぐにはしっぺ返し戦略を実現できれば理想的なわけです。しっぺ返しの特徴は、「自分からは仕掛けない」こと。
他店より高ければ値引き、というのは「こちらからは仕掛けないけれど値引き攻勢にはきっちりしっぺ返しするよ」という競合店への意思表示になります。結果として不毛な価格競争を抑制しているわけ。しかも顧客の目には過激な安売り店に映るんだから一石二鳥。
でも賢い消費者は騙されちゃいけない。その地域では値段が高止まりしてる可能性があるってことです。