迫る極限

世界陸上で男子100mの記録が更新されました。0.01秒だけ。カール・ルイスが10秒の壁を破った頃に比べると、記録更新のスケールはずっと小さくなってます。
それはもちろん当たり前のことで、人類は際限なく速くなれるわけではないですから。どんなにスポーツ科学が進歩したって、8秒台で走れるなんてあり得ないでしょ。限界があるんです。
さて、ここから思考実験。もしスポーツ科学の進歩による人類の能力拡大が止まったとしたら、記録更新のペースはどう減っていくか。
実はこれとまったく等価な問題を、研究室のゼミで出題されたことがあります。それは「n個の数列を順に見ていって最大値を求めるとき、仮の最大値は平均何回書き換わるか」という問題。この問題の答えはlog(n)回です。

解き方が知りたい人へ。
求める回数をf(n)とします。すると、n個の数列をn-1番目まで見ていったとき、そこまでで書き換わった回数は平均f(n-1)回。最後のn番目で書き換えが起こる確率は1/nです(最後の数が最大である確率)から、f(n)=f(n-1)+1/n という漸化式が立ちます。f(1)=1なので、漸化式を解くと
f(n) = 1 + 1/2 + 1/3 +…+ 1/n ≒ log(n) となります。

最大値が書き換わるとは、つまり記録更新のこと。男子100mという競技が生まれてから公式大会がこれまでn回あったとすれば、記録更新のあった回数(の期待値は)log(n)回だってことになります。
そしてその伸び率、すなわち第n回大会で記録更新が起こる確率はlog(n)を微分して1/n。そう、記録更新の可能性は、大会の回数にちょうど反比例して減っていくのです。ああ、陸上がつまらなくなっていく・・・
記録更新ラッシュを今後も楽しめる簡単な解決策はあります。ちょっとルールを変えた別競技にしてしまえば、一から記録をつけ始めることになるからまたしばらくは新記録が出続けることになります。男子98m走とかね。