「看護婦」という呼び方

「看護師」という新しい呼称が導入されてから,あっという間に「看護婦」という言葉は姿を消しました。看護婦という言い方は,すでに「古い」印象を与える言葉になっており,かといって「看護師」もまだ据わりがよくない,いまはそんな時期かと思います。

この時期なので,看護婦という呼称について少し議論をしておきましょう。

看護婦と呼ぶのはいけないのか?

法律上の呼称が看護婦・看護士から看護師に変更されました。もう,看護婦・看護士という呼び方をしてはいけないのか?
そんなことはありません。法律で定められているのは「看護師以外が看護師を名乗ってはいけない」ことであって,「看護師を看護師以外の名前で呼ぶ」ことは問題ではないのです。
たとえば,医師の呼称は法律で「医師」と決められているけど「医者」と呼んでも全然問題がないですよね。

看護婦・看護士という呼称には問題があったのか?

呼称が変更されたからには,元の呼称では困ることがあったのかという問題になります。
まず,男女差別なのかという点。男女で呼称が違うのは男女差別なのか? 呼称が異なること=男女差別という認識は,少なくとも日本ではあまり一般的ではないと思われます。最も一般社会になじみが深いと思われる職業であるホワイトカラー被雇用者のことを慣用的に,男性ならサラリーマン,女性ならOLと呼び分けているのが一般的ですね。このことに異議が唱えられることはほとんどありません。フランス語の職業も男女で呼称が異なります(ソムリエ/ソムリエールなど)が,これにも意義が出てはいません。
もっとも,看護婦・看護士の場合,看護婦がその両方を代表してしまっていたという現実は指摘できるでしょう。例えば,看護婦と看護士の職務長は「婦長」でした。ただし,これは男女同権を目指す上で,呼称変更までする動機としてかなり弱いのは確かです。

では,なぜ呼称が変更されたのか?

看護婦・看護士を看護婦が代表しており,看護職をほとんど女性が担っている不均等を反映してしまっていたこと。これは言えます。
もうひとつは,性的に中立な呼称がなく,「看護婦・看護士」という面倒くさい呼び方をしなければいけなかったこと。これもあるでしょう。
ただ,両方合わせても法改正までする動機としては弱すぎます。いじるべき法制度は他にもっとたくさんあったはず(らい予防法の撤廃に何十年かかったことか)。
個人的な意見ですが,「師」の一文字がほしくて運動した人々の成果ではないかと思っています。
(2013/07/03 最後の一文については今はそういう意見ではないので打ち消し。実際、動機は何なんでしょうね。よくわからないです)