謎の迷走飛行を読み解く

最近のアメリカはなんか変だ、と思っている人は多いでしょう。
損になることばっかりやってるのです。アフガンだイラクだもそうだし、京都議定書の批准を拒否したりイスラエルを支持し続けたり、ドイツやフランスにあからさまに敵意を見せたり。
わざわざ国際社会の中で孤立しようとしているかのような行動をとり続けているわけです。何がしたいんだ?
田中宇の国際ニュース解説というニュースサイトがあって結構読者も多くておいらもチェックしてる所なんですが、ここはずっと前からこう解釈してます。「アメリカ内部には世界の多極化を望む中道派がいて、アメリカの覇権を後退させるためにわざと世界に嫌われる政策をとっている。ネオコンの一部はむしろ中道派の回し者ではないか」って。
いやー、確かにそうとしか思えないってのはうなずけます。でも、この解釈だってちょっと変。世界を多極化してアメリカの世界経営の負担を減らすとしても、その多極化した世界の中でアメリカは良いポジションにいられないと多極化するメリットなんか全然ない。自分のポジション悪くしてるようじゃやっぱり本末転倒なのです。だから田中氏の見解には納得できていません。
さてそこで、この疑問に明快な答えを与えてくれる本がありました。エマニュエル・トッドの『帝国以後―アメリカ・システムの崩壊』(敬一さんが練習中に薦めてた本)。
扇情的なタイトルとは裏腹に、かなり学問的な本です(タイトルだけ見たら、危ない活動家さん達の講演会みたいだよね)。というかこの著者はシラク大統領の理論的バックボーンにもなってる大物社会学者で、ソ連の崩壊をその20年以上前に予言していたすごい人。
さて、この本の内容にもやや納得できない部分はあるんだけど、アメリカの迷走に関する考察については納得の一言でした。どういう流れかというと

  • もともと隔絶された新大陸に位置するアメリカは、国際社会から孤立しやすい傾向にある
  • しかし二次大戦中・戦後の世界は秩序の回復や民主化、経済発展のためにアメリカを必要としていた
  • しかし現代になり、アメリカは世界に貢献することができなくなってきている
    • 軍事的には弱すぎてロシアを制圧することもできない(中国については触れていない。2年前の本だからかな)
    • 民主化という点では、すでに民主体制から寡頭制に移行しつつあるアメリカは、民主化しつつある世界各国とは対照的に民主主義から離れていっている
    • 経済的には貿易赤字を垂れ流しており、これはつまり世界から投資されるマネーで輸入しているばかりだということ。世界に養ってもらわなければアメリカ経済はないが、アメリカがなくても世界経済はやっていける状態である
  • こうして世界から必要とされなくなった場合、アメリカの覇権は立ちゆかなくなる。いち独立国へ戻るのが大局的には最良の選択肢なのだが、過去の栄光もありその選択肢は選びにくい
  • そこで、アメリカは自分の必要性を示すために、世界に危機を演出し、自分で軍事的にそれを解決しようとする。相手は、ほどよく弱い国(イラクなど)を選ぶことになる
  • でもそういう悪あがきがそのたびに逆効果に出て、毎回孤立を深める羽目に

ああ、なるほどなって思うでしょう。特にだ、貿易赤字ってのは考えてみたらすごい話なんですよ。輸出している以上の額の製品が輸入されてくる。どこからそんなお金が出てくるのかといえば、そっか、ドルを頼って世界中が投資してくるからだったんだ。
すると、アメリカに投資してもしょうがないなとみんなが感じ始めれば、世界からモノを買うお金がなくなってアメリカは今の豊かな暮らしはまったくできなくなる。あのハイテク軍団も維持できなくなって、影響力はさらに落ちる。ああ急転落。
あー、はやいとこドルは売っ払っとこーっと。