ダイナミックな静物

『やさしい魚』(新実徳英)の「鳥が」。詩は、今回のNHK課題曲にも採用されている川崎洋

  鳥が空をみあげるように
  花がつぼみをほどく

  鳥がはばたこうとするように
  花が葉を茂らせる

  鳥が飛び立つように
  花が咲き初める

  鳥が歌うように
  花が匂う

  そして人は言葉で
  鳥のように飛び
  花のように咲く

曲を聴いたときにまず思ったことは、作曲者とおいらとはこの詩の感動ポイントが全然違うんだな、ということ。曲の一番の盛り上がりは第5段、はじめて「人」という言葉が出てくるところです。そこで盛り上げるのはまあ常識的な判断。でも、おいらがこの詩に感動した点はむしろその前までで、最終段は蛇足だとさえ思いました。
花って、食虫植物でもない限りは何のアクションをするわけでもなくそこに咲いている静物です。でも詩人にはそれが静かなだけの存在に見えなかった。まるで鳥のような躍動感を花に感じ取ったのです。この新鮮な発見だけで必要十分じゃないか、と思ったわけ。
でももう少し読んでいると、最終段のおいしさがわかってきました。その、静的なはずの花で人が紡ぎ出す言葉のダイナミズムを語っているのです。何というアクロバット。その離れ業を実現するためだけに花のダイナミズムという大発見を前半に据えている。なんともぜいたくな仕様の詩なんですね。