『夏の朝の成層圏』

『南の島のティオ』とセットで買った同じ池澤夏樹の長編。孤島での漂流記だけど、メインになるのはそこでの心象体験。その孤島の草木や生物、精霊達は、誰の目にみられるわけでもなく息づいてきた。主人公も、人間関係というものがなくなってしまった今、その精神活動だとか行為だとか体験だとかが「誰かの観察」というものと切り離されてしまって、誰もみていないけどそこにいる自分という存在になってしまう。それで、自分のことをわざわざ「彼」とよんで語り出すのです。そういう世界にとけ込んでしまった彼を文明世界に戻してくれるのは、やはり観察してくれる他人の登場しかなかったんだね。
この題名、ティオの夜の旅の第3楽章『環礁』の歌い出しに出てくるけど、内容の印象としてはむしろ第4楽章『ローラ・ビーチ』を思わせます。しかも、ローラ・ビーチについての見方も若干変わってくるなあ。