Emergent! Emergent!

今朝来た救急車は、当直始めて以来これまでで一番肝を冷やしました。
最初はね、電話で入った受け入れ要請では「66歳のおっさんが胸とのどが痛いとのこと」と、これが夜の3時半のこと。
救急室に到着したのは4時頃なんだけど、どうも電話で聞いた症状と違う。息が苦しそうなんです。脈拍も上がってるし。
痰が絡みまくってはっきり言葉が聞こえないんだけど、2〜3日前からノドの痛み・痰・息苦しさがあると。
正直、「2〜3日前からのがなんでこの時間に・・・」「というか救急隊もいい加減な連絡を・・・」と思ったもんです。
実は後からわかったんだけど、ここ数時間で急激に症状が増強していたのです。救急隊の連絡が軽症っぽかったのも、自宅で収容した時点ではまだそれほど呼吸困難が来てなかったからだったんです。分単位で進行してたんですよ。
さて、呼吸困難はどうも息を吸うときに強いし、雑音もノドから聞こえる。これは、上気道の狭窄の特徴です。もちろん放っておけば窒息してしまう。
嚥下痛があったと聞き出せたので、急性喉頭蓋炎と当たりをつけて、頚部のレントゲンを撮って近くの医大の耳鼻科へ転送することにしました。
救急隊はまだいたから、ステロイドの点滴つないで、そのまままた車に乗せて、移動・・・、と思ったら。
なんか様子が変。さっきより呼吸がどんどん苦しくなっている。そう、分単位で呼吸困難が進行しているのです。
やべえっ、この病院にいても気道は確保できない、専門家のところへ急がないと!
救急車で新宿の医大までは10分ほどの道のりだったけど、1時間くらいに感じます。酸素をフルスピードで吸入してるのに血中酸素飽和度サチュレーションは下がる下がる。
これは大出血も覚悟で、救急車内で気管穿刺やるしかないかと思いました。
結局、意識も保ったまま医大に到着してファイバースコープで挿管ができました。
挿管するときに、喉頭は全然腫れていないことがわかったんだけど、なんで狭窄しているのだろうとCTを撮ったら、首に巨大な腫瘍が。直径3cm、高さ10cmはあるでかいのが、食道と気管を思いっきり後ろから圧迫していたのでした。
そうか、嚥下痛は圧迫された食道の症状だったのか。
それにしても、これだけでかい腫瘍があっても、3日前まではなんの症状もなくて、しかも症状が出始めたら分単位で進行するなんて、ほんと人体ってわかりません。

そこでなにをやっている

週1で来ている当直室、この部屋はどうも変です。
どこが変って、デスクが。引き出しの中に、どうも不審なものが入っているんです。なにかというと、注射器と注射針がたくさん・・・
病院に注射器があって何がおかしいと言われるかもしれないけど、当直室で注射器なんか使うわけありません。使ったらすぐ危険ゴミとして捨てるものだから、当直室まで持ち帰ることなんて普通ないんですよ。
前に一度、全部病棟に持って行って捨ててしまったことがあったんだけど、また何週間かすると引き出しの中が注射器だらけになっている。当直室に来ている誰かが使ってるんです。日常的に。
・・・おいおいなんに使ってるのさ。
他に引き出しから出てくるもの。変なパイプの切れ端、割り箸、竹串、サンドペーパー、塗料。
・・・んー、どうやらプラモデラーが来てるんだなこれは。

夜中の散歩中毒

じーちゃんばーちゃんの多い病棟って、夜中に寝ないで騒ぎ出す人ってのがしょっちゅういます。不穏とか夜間せん妄とか呼んでますが。
そうならないようにするためには、昼間に寝て昼夜逆転してしまわないようにするとか、お見舞いに頻繁に来てもらって、病室といういつもと違う空間に早くなれてもらうとか、まあ日常の看護の問題になってきます。
ただ、日常どういう対策をするかはいいとして、実際夜中に騒ぎ出したじーちゃんが出たらどうするかは別の問題。放っておけば歩こうとしてベッドから転落して大けがするだろうし、付きっきりで監視してるような人手もない。すると、

  1. ベッドにベルトで固定する。「抑制」と言います。
  2. 鎮静剤を使う。セレネースとかロヒプノールとか。

といったような対策をすることになる。どっちも後味悪いですね。抑制は、はっきり言って将来自分がぼけぼけになったとしてもされたらやだし、鎮静剤みたいな向精神薬は老人に使っていいことなんてない。依存性も耐性形成もあるしね。
そこでおいらがたまにやってるわざが、「じゃあ起こしちゃえ」です。
寝ない子は、寝ないでいいからと車椅子に乗せてナースステーションに連れてきて、お茶でもすすめちゃう。そのうち落ち着いて、ベッドに戻るとあっけなく寝付いてくれます。夜勤の看護婦さんたちにそこまでしてる余裕はないから、ヒマな当直医だからこそできるやり方ですね。
で、おとといの土曜日、夜中にやっぱりいたわけです。目が冴えまくって徘徊したがるじーちゃんが。抑制のベルトも自分ですり抜けてしまうと呼び出されたわけですが、それじゃあ徘徊につきあおうじゃないかと病院ロビーのクリスマスツリーを見に夜中の散歩をしてきました。そしたら案の定、あっさりおやすみ。ちょろいちょろい。
さて今夜。また当直。おとといのじーちゃんはどうなったかな・・・?
「夜中寝付かず、散歩に連れて行けとうるさい」
そうか、散歩にも依存性があったか!

怖いものは

夜の病院で当直なんかやってれば、大抵の怪談は怖くなんかなくなります。というか、オバケの10人や20人にいちいちびびっているようじゃお仕事になりません。
・・・もっとも、おいらは「霊感のない」たちで幸か不幸かオバケと対面したことはないんだけど。
今日は病棟をまわったときに看護婦さんたちとそういう「病院で出る」やつらの話になっていろいろ聞いちゃいました。体験した本人の語るリアル病院怪談。いや季節外れの涼しさだった。
そのあとはそのまま仮眠したんだけど・・・
深夜になって。
急変でコール。原因不明の声門狭窄が続いていた人が突然の呼吸困難。おそらく声帯が急に腫れたんです。
って、原因もわからないのにどうしたらいいねん。ステロイドとアドレナリンで治まったけど(アドレナリンを使うところだったのかは謎だけどね)、はっきり認識しました。夜の病院で怖いのはなにより急変です。

対血糊

服が血で汚れたら、病院関係者はどうするでしょう? 実はこれはもうセオリーで、オキシドールで色落としするのが正解です。消毒薬はほかにもあるけど、オキシドール以外では血を落とす役には立ちません。というか、消毒そのもののためにオキシドールを使うことはほとんどなくて、色落とし液みたいな扱いだもん。
朝方運ばれてきた泥酔の兄ちゃんが、点滴3本ほど落としたところで目が覚めて大暴れ。吠えるわ暴れるわ点滴引っこ抜くわで朝っぱらから取っ組み合いしてきました。引っこ抜いたところからさんざん血糊を人になすりつけてから血を見て驚いてるし。全身の色落としめんどくさかったんだから・・・

誰かがやらないと

病院にもブラックリストがあります。過去にトラブルを起こしたなどの理由で、診療をお断りすることになっている患者さん。例え救急隊からの受け入れ要請でもブラックリストに入っていると普通は断られてしまう。
今日来たおばちゃんは、うっかり救急要請を受けてしまったというブラックリストの人でした。こちらに搬送されてから気付いたパターン。でも来てしまった救急車を帰すわけにも行かない。そもそも近隣の病院ほとんどでブラックリストに入っているらしく、かかりつけ先さえ受けてくれていなかった模様。まあ、どこかが診ないといけないのです。
さて、診療内容自体は利尿剤だけで済む簡単なもの。でも、大変なのはそこじゃない。
身寄りのない一人暮らし、自力歩行できず、入浴・トイレも自分で行けない、攻撃的で正常な会話が出来ず、福祉の担当者からさえも避けられている、というかなり難しい状態。世話をする人がいなくて自分でトイレに行けないということは・・・どういう匂いがするかは推して知るべし(厩舎のおがくずを換える作業のときの匂いが一番近かった)。
そして、手持ちのお金もなく、深夜にタクシーがわりに救急車を呼んでしまっているから帰りの足がない。面倒だからと入院にすれば確実に院長にものすごく怒られる・・・事務当直さんが。そもそも入院理由がないんだけど。
思案の末、「ブラックリストをよく確認しなかったのが悪かったから」と事務当直さんのポケットマネーでタクシーに乗せることに。車椅子の移乗の人手が必要なのでおいらも同乗。タクシーの運転手さんには50回くらい平謝りしてお世話になりました。救急隊の人からも同じぐらい平謝りされたっけ・・・。
しかし福祉ってのはどう充実させようとしてもその網にもれちゃう人ってのは出てくるもんです結局。特に日本は遅れているとは言え、精神福祉は一番難しい。そういう行政の一番泥臭い部分をやっている役所の人たちには、ほんとに尊敬。

Something will happen

「あたる」と言います。当直するたびに何かの急変に巻き込まれる人のこと。ちょっと前仙台であった筋弛緩剤投与事件のとき、容疑者の看護士が夜勤の時に急変が多かったという証言が出ていたけど、そういう現象自体はありふれたことなのです。
何も起こらないはずの長期病棟から大量下血でコール。血圧は70台まで、ヘモグロビン濃度は5.3(正常の半分)までダウン。そしてここは山奥。
輸血の交差適合試験クロスマッチを自分でしたのなんて実習の時以来だわ。